学術研究

大阪・関西万博で世界遺産・コパン遺跡を3D展示―ホンジュラスのマヤ文明を日本の技術で紹介

公立小松大学

2025年4月13日、大阪・関西万博が開幕しました。

共同館 Commons-D内にあるホンジュラスパビリオンでは、1980年に世界遺産に登録されたマヤ文明の重要遺跡コパンが紹介されています。出土品のレプリカに加え、数年にわたる計測によって制作された点群データの展示もあり、来場者はゲームコントローラを使って遺跡内を自由に動き回る体験を楽しんでいます。

ホンジュラス展示ブースに設置された空間再現ディスプレイ

40年にわたるコパン遺跡研究

駐日ホンジュラス大使館は大阪・関西万博の展示企画に際して、コパン遺跡に関する世界的研究者である公立小松大学・中村誠一特別招聘教授に協力を依頼しました。中村教授は40年以上にわたって多くの考古学プロジェクトを指揮し、コパン遺跡で世界的な発見を成し遂げているマヤ考古学者です。

「コパンでの調査研究では、さまざまな先端的な技術を積極的に取り入れながら王朝史の解明を目指しています。3D計測についても2016年頃から取り組みをはじめ、公開されている遺跡はもとより、考古学者によって掘られてきた調査用の坑道のほか新たな発掘現場でも点群データの取得を進めています。今後さらに広い範囲の3Dデータの取得、分析を進めることができれば、新たな研究成果が得られると考えています」(中村教授)

コパン遺跡の一部セプルトゥーラス地区での中村教授(右)

大阪万博、ホンジュラス展示を支える取り組み

「当初、ホンジュラスパビリオンのコンテンツの主役と考えたのは、ヘッドマウントディスプレイを使用する体験型の展示でした。これは日本政府の文化無償資金協力による技術支援によって制作されたもので、現地コパンの考古学博物館ですでに公開されています。VRによって、一般公開されていない調査用の坑道をリアルに体験でき未公開の重要な発見物を見ることができるため来館者にもたいへん好評です。しかしながら、ヘッドマウントディスプレイを利用する展示には、機器の着脱時に係員のサポートや感染症対策などが必要になり、来館者に気軽に体験してもらうことが非常に難しい。なるべく多くの来場者に見て、触れて、体験してもらいたいという私たちの希望と、万博会場での運用面の制約を考慮すると、現地のコンテンツを今回の万博会場でそのまま展示するのは困難だとわかりました」(中村教授)

現地博物館でのVR展示の様子

「コパン遺跡の博物館プロジェクトに携わる共同研究者の一人で、ヘッドマウントディスプレイを使用するコンテンツ制作にも関わってきた静岡大学・村野正景准教授から、裸眼でも立体視が可能な空間再現ディスプレイの話を聞きました。多くの来場者を想定した展示方法を検討するに当たっては、この技術の活用に加え、コパン遺跡の特徴を紹介する動画も3Dデータを活用して制作することを勧められました」(中村教授)

16号神殿・ロサリラ神殿(レプリカを計測)・調査用の坑道を合成した点群データ

「マヤ文明の遺跡の特徴として、重層的な建築、すなわち、ピラミッド状の神殿の地下にその前の時代の神殿が現存する、つまり地中に建造物が重なって埋まっていることが挙げられます。中でもコパン遺跡では、16号神殿と呼ばれる巨大なピラミッド神殿の下に荘厳なロサリラ神殿がいまも眠っており、さらに周辺には研究者が掘った調査用のトンネルが張り巡らされています。従来イラストや言葉で伝えることに非常に苦労してきましたが、立体的に3Dデータで表現することで、一般の方でも直感的に理解してもらえると思いました」(中村教授)

エリジオン本社でコンテンツを確認するハロルド・ブルゴス駐日ホンジュラス大使

日本の技術を組み合わせ、ホンジュラスの世界遺産を魅力的に発信

「日本政府や企業の支援を受けながらこれまで数年間にわたりコパン遺跡の3D計測を続けてきましたが、日本製のソフトウェア(InfiPoints)を導入することによって、これまで計測してきた点群データの価値がよりいっそう高められると感じています。また、大阪・関西万博ではソニー社製の空間再現ディスプレイによる展示が実現し、これまでにない体験を通じて多くの来場者にホンジュラス唯一の世界文化遺産を記憶してもらえる機会となっています。ホンジュラスの世界遺産を、日本の技術の組み合わせによって魅力的に紹介できるというのは、日本で開催する万国博覧会の主旨に沿うものであると大変満足しています」(中村教授)

ホンジュラスパビリオンにおける空間再現ディスプレイの展示は、事前予約が不要なセービングゾーンCommons-Dにて、2025年10月13日の万博閉幕まで公開予定です。

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