松江高専電子制御工学科の久間英樹教授は、日本全国の鉱山坑道の採掘開始年代や採掘量などの研究を進めています。独自に開発した遠隔操作型ロボットを用いて狭く危険な坑道の奥まで3次元計測したり、さらに坑道の入り口付近の地表面を丁寧に計測したりすることで坑道の内部や周辺の特徴的な形状を明らかにし、採掘開始年代や採掘量を導き出す新しい手法の確立を目指しています。
久間教授は、計測した点群データに含まれるノイズの除去や、樹木を自動的に取り除き地表面のみの点群データを作成する際にInfiPointsを活用しています。
2007年に世界遺産登録された石見銀山をはじめ、日本国内には多くの鉱山跡が残されています。16世紀以降に世界で流通した金や銀などの貴金属の多くを産出したことから歴史的に貴重な遺跡とされています。その一方で、遺跡の多くは樹木が生い茂り鉱山の全体像が確認しづらかったり、坑道が狭く落石などの危険があるため内部に立ち入りができなかったりと、詳細な調査を行うのは難しい状況でした。
そのため従来の研究調査では、研究者が地表部分のスケッチを描いたり写真を撮ったりして記録するのが一般的でした。また坑道内部を2次元スキャンで計測する方法もとられていましたが、いずれも取得できる情報の量や正確性に限界がありました。
久間教授はある展示会で3Dスキャナーの現物を確認したのをきっかけに、まず地形のスケッチ調査に代わる方法として3Dスキャナーによる計測を研究調査に取り入れました。このとき、久間教授が点群データ処理機能として注目したのがInfiPointsの地面抽出機能でした。
InfiPointsには点群の特徴から地面を抽出する機能が搭載されています。実行メニューを選ぶだけの簡単な操作で地表面の樹木や建物などが地面と切り離され地面だけを確認することができます。
久間教授は日本を代表する鉱山の一つであった兵庫県の多田銀銅山で、実際に地表の3次元計測とInfiPointsでの地面抽出を行いました。その結果、鉱山の地表を削るようにして行う特徴的な採掘方法「露頭掘」の跡が特定されました。
さらに編集した点群データを3Dプリンタの出力用データ作成にも活用し、鉱山跡の模型の製作を行いました。模型を使うことでより詳細な考察が可能となり、露頭掘跡の体積から当時産出された鉱石量の推定にも成功しました。
そのほかにも、鉱山跡周辺の地表を調査することで石垣などの人工物の形状が明らかになり、鉱山の周りに形成された当時の集落の様子が解明されました。
鉱山跡の坑道の内部を調査する際には、物理的に人が入ることができないことが多く、もし入ることができたとしても長時間にわたって綿密な調査を行うことは体力的にも精神的にも困難です。そこで久間教授の研究室では学生らが中心となって坑道の内部の3次元計測を行う専用のロボットを開発しました。
坑道内部を計測したデータには浮遊物などのノイズが含まれているため、InfiPointsのデータ前処理機能を用いてデータのノイズ除去を施した後、コンピューター上での調査・研究に利用しています。
久間教授はこれまでに全国の約100カ所の鉱山坑道跡を調査してきました。その経験から、地形の3次元計測は災害対策にも応用できる可能性があると考えています。例えば、山の斜面を定期的に計測し変化量を観察することで土砂崩れのリスクを見極めるといった方法です。
久間教授と研究チームは、独自のロボット技術とこれまでに蓄積した点群データの活用ノウハウを駆使し、鉱山跡の調査にとどまらないさまざまな分野への3次元計測の応用に関する研究に取り組んでいます。