製造

点群データ活用で可能になった複雑な形状の鉄製品製作

有限会社新生製作所

新生製作所は、富山県富山市を拠点として北陸地域の広い範囲の顧客に対し個々のニーズに合わせた大型の鉄製品を製作しています。創業から50年を迎えた同社は、現在、従来の手作業による現場調査や図面作成の手法と3Dレーザースキャナーや点群データを使った新しい手法を組み合わせ、経験したことのない現場の仕事にも果敢に挑戦しています。

正確な現場調査の必要性

新生製作所は建物の螺旋階段や設備階段、鉄骨建築物の新築・改修など、幅広い用途の鋼製品を一から加工・製作することを強みとしています。個々のニーズに合わせられる柔軟性が顧客の信頼につながっている一方で、常に新しい現場や特殊な仕様に向き合うからこその苦労も多く抱えていました。

「私たちが作る製品の多くは一品ものです。新しい現場に出向き状況を確認して図面を起こす、そして加工して製品を納める、そのプロセスを繰り返すことで技術力を高めてきました。ただ、現場は簡単にアクセスできるところばかりではなく、むしろ事前調査を行えるのは1回だけということも少なくありません。その中で、経験したことのない現場の仕事を、求められた納期までにしっかりとやり遂げることが求められます。当社の事情で言っても、手間やコストを考えれば現場調査は1回で済ませ、製作の手直しを発生させず一回で納品したい思いがあります。そのためには、確実な現場調査をもとにした正確な製作図の作成が必要です。要となる現場調査を間違いなく行えるかが重要なポイントとなっています」(代表取締役社長 馬場靖也氏)

ボール紙を使った形状トレースも一苦労

新生製作所は一度きりの現場調査で確実に状況を把握するために、これまでもさまざまな工夫をこらしてきました。

「例えば鉄骨が鉄板でボルト留めされている箇所について、強度を上げるために上からもう1枚鉄板を貼って補強してほしいという案件があります。鉄板の形状は現場によってひし形や三角形などさまざまで、大きさもそれぞれ異なります。その場合現場調査ではよくボール紙を鉄板に当てて形状をトレースしています。アナログな方法ですが一番手軽で確実なやり方です。ただ高い場所では足場が必要になったり、危険なところでは物理的に作業ができなかったりする場合もあります。また鉄板上には数十個のボルトの頭が出ていてボール紙を押し当てられないため、ボルトの数だけボール紙に切り込みを入れてトレースしなければなりません。その作業を一つの現場で数十カ所行わなければなりません。手間も時間もかかるため、何年も前から『カメラで撮ったらトレースしてくれるような技術が出てきてくれないか』と思っていました」(馬場氏)

念願の技術を取り入れたものの活用しきれない日々

その後、馬場氏は新しい技術をリサーチする中で3Dレーザースキャナーの存在を知り、2019年12月にはライカジオシステムズ社のLeica RTC 360を導入しました。近隣では一部の土木業者が3Dスキャナーを導入しているのを見聞きしていましたが、仕事で関わりのある建設関係の知り合いで3Dスキャナーを活用している企業はまだなかったころでした。

「3Dレーザースキャナーを知ったときは『長年の苦労を解決してくれるのはまさにこの技術に違いない』と思いました。周囲にスキャナーを使っている人はいませんでしたが、自分が一から勉強しながらなんとか使ってみようと機材を導入しました。ただ実際には、日々の業務に追われなかなか3Dレーザースキャナーを現場に投入する機会を作れずにいた、というのが正直なところです」(馬場氏)

その中で日本全体がコロナ禍に見舞われます。

「3Dレーザースキャナーや点群データのことを学ぼうにもどこにも出かけられなくなり、勉強できる機会がほとんどありませんでした。ただいろいろ調べたり自分で機材やアプリを触ったりする中で、点群データを扱うにはスキャナー本体だけではなくソフトウェアの選定も重要であることがわかってきました」(馬場氏)

鋼材の3D計測の様子

点群処理ソフトの選定

「そこで点群ソフトについてあらためてリサーチしました。すると点群ソフトと一口に言っても、土木系で使われているものと建設やプラント業界で普及しているものは別であることを知りました。もちろん当社が使うなら建設やプラントの現場で使いやすいものを選ばなければなりません。InfiPointsが点群データから躯体や鋼材などをCADモデル化する技術に長けていると感じ、2023年2月に導入しました」(馬場氏)

点群と、点群をベースに作成したCADモデルを見ながら行う現場調査

RTC 360で計測した点群は、付属のソフトウェアを使ってE57形式で出力することでInfiPointsに入力することができます。

「現在は、現場を計測した点群をInfiPoints上に表示させ、採寸した結果を製図に生かしています。点群だけではレーザーの死角となった部分が欠けているため、壁や天井、鋼材などはInfiPoints上で点群をベースにCADモデル化し点の隙間を補うようにしています。こうすることで視覚的に現場を正確に確認でき、お客様と認識を合わせる際にも情報をお伝えしやすくなります。InfiPointsを活用しながら点群データをうまく扱うことで、確実で手戻りのない現場調査を行うことができるようになりました」(馬場氏)

3Dスキャナーと点群処理ソフトを使った挑戦的な現場 - トンネルの隔壁製作

「点群を利用する中で、従来に比べ仕事の効率が上がったり測定の確実性が上がったりしただけでなく、これまでは請け負うことが難しかった案件を受けられるケースも出てきました。例えば、粗く削られたトンネルに設置する鉄製の隔壁製作です。トンネルの内側の形状がなだらかな曲面ではなく手掘りの凹凸のある壁面、まさに3Dの壁面に合わせた図面を書くのは簡単ではありません。もし3Dスキャナーを使わないとすれば、まず基準になる鉄の骨組みをトンネルの中心部に建て、その部材から周囲の壁面までの距離を細かく実測したり、ボール紙を当てながら凹凸をトレースしたりする方法は考えられます。根気よく行えばおそらく作図できますが、そこにかかる労力や出来上がりの精度を考えると仕事として請け負うのは難しく、場合によってはお断りしなければならない案件と言えます。ただこのお話をいただいたとき『3Dレーザースキャナーや点群の強みを生かせる絶好の機会になるかもしれない』と思いました。お客様にはぜひやらせていただきたいことを伝え、新たな取り組みとしてチャレンジすることにしました」(馬場氏)

そして馬場氏は実際トンネルの現場に3Dスキャナーを持って出向き計測を行いました。後の点群データ処理のしやすさや、データ通りの位置に製品を配置しなければ壁面と合わなくなることを考慮し、隔壁の設置予定場所にレーザー墨出し器を設置し鉛直・水平のグリーンレーザーを基準としました。その手前と奥の2カ所だけでの3D計測を行ったため、3Dスキャン作業は非常に短時間で終わりました。

「計測したデータを確認すると、狙い通り墨出し器のグリーンレーザーの色が点群上に表れました。まずこれを目印にInfiPointsで正射断面を作り、次にこの断面形状を下絵としてInfiPointsの図面作成機能を使って2D図面を書きました。さらにそれを3D CADソフト、そして汎用CADソフトに受け渡し、レーザー加工機による鋼板切断データを作りました。結果的に非常にスムーズに隔壁の設置を終えられました」(馬場氏)

トンネル内部を3D計測した点群データ

スライス表示させた点群を下絵に作成した図面。赤い線がトンネルの形状

製作した隔壁を設置した現場

今後は点群とCADの干渉チェックも

「現在はInfiPoints上で点群を閲覧し、図面の下絵として利用するのが主な使い方になっています。今後は3D CADソフトウェアをうまく使いこなしながら、3DデータをInfiPointsに取り込んでさらに仕事の効率化を図りたいと考えています。例えば3D CADソフトウェアで事前に作成した製品のモデルをInfiPointsに入力し、現況を表した点群データ上に浮かべながら設備同士の取り合いをチェックしたり、搬入ルートを検討したりできたら、また一歩業務のデジタル化と効率化を進められると思います」(馬場氏)

災害発生後の迅速な補強工事のために

2024年1月、北陸地域では広い範囲にわたり能登半島地震による被害が発生しました。新生製作所にも、社屋や工場の鋼材が変形してしまった顧客から修繕や補強の依頼が寄せられました。

「富山を拠点とする当社からでも能登半島まではかなり距離があります。何度も現場調査に行ったり製作のやり直しをしたりしていては納品まで時間がかかってしまいます。一刻も早く、迅速に施工を終えるためにも、まずは3Dレーザースキャナーを持って現場に出向き、正確な図面をスピーディーに作成したいと考えています。またInfiPointsで作成した閲覧用ファイルを協業先とシェアすることで、関係者間の事前の認識合わせもスムーズに進められると考えます。まだ点群データになじみのない企業も多いのですが、点群データを活用した新しい手法を他社とも一緒に模索していくことで、これまでとまた違った面から業務の効率化が図られるのではと思います。その結果として困っていらっしゃるより多くのお客様に製品を届けられたらうれしく思います」(馬場氏)

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